スズキサトシ(@sasa_rhythm)です!
マーシーソロ4作目で、今のところ最後のソロ作品であるのが、本作『人にはそれぞれ事情がある』。(2019年3月現在)
前作『RAW LIFE』では過去のマーシーソロとは違い、激しいロックサウンドと、社会性を帯びた歌詞が特徴でしたが、本作はどちらかというと1st、2ndの傾向に戻り、ノスタルジックな雰囲気が帰ってきました。
とはいえ、アコースティックど真ん中という感じではなく、サックスが頻出するなど、これまでにない音色面での豊かさが見えます。
レコーディングメンバーは、前回に引き続き、佐久間正英とそうる透の面々。
このメンバーでのレコーディングは2枚目で、「RAW LIVE」と題したライブを経たのもあり、演奏面での波長と言うのはさらに増した印象です。
そして本作のマスタリングは、ハイロウズファンには有名な、「ボブ・ラディック」によるもの。
ハイロウズ時代に彼がマスタリングを手がけたものは、妙にキンキンした音で、個人的にあまり良い印象が無いのですが、『人には~』は別。
楽曲群自体がそうゆう雰囲気だからとも言えますが、透き通った空気感を感じるような、心地よいサウンドが聴けます。
個人的にはマーシーソロは、ノスタルジックさがあってこそと思うところであり、そういった意味で前作よりも好きな作品。
では楽曲紹介に入っていきましょう。
人にはそれぞれ事情がある 楽曲解説
月のウサギ、太陽のカラス
作詞・作曲/真島昌利
マーシーソロで初めて登場するインスト曲。
ウォーキングベースや、ドラムの叩き方と言い、ジャズのような雰囲気が漂ってますが、サックスが吹いているメインメロディを聴くと、流石マーシーと言えるキャッチーさ。
静かな夜に夜風を浴びながら聴いたら最高と言えるでしょう。
ちなみに本来アルバムタイトルは、実は同曲名を英語にして『rabbit on the moon, Crows in the sun』として発売される予定でしたが、土壇場になって変更。
そのためアルバムジャケットには旧タイトルが書かれたまま。
何か事情があっての変更ということで、皮肉めいた『人にはそれぞれ事情がある』というタイトルになっています。
空席
作詞・作曲/真島昌利
同アルバムのハイライトと言える、屈指の名曲。
個人的にはマーシーソロで一番好きな曲が『空席』で、死ぬまでに一度はライブで聴きたいという夢が。
キーGの基本的なカノン進行のキャッチーなメロディの上に乗った、難解なのに異様にリアルで、光景を脳裏に浮かばせる歌詞は天才的と言えます。
ハーモニカリフも心地よく、単純なフレージングだからこそ、耳に残ります。
特に最後のアドリブハーモニカは、そもそも吹いてる曲数は少ないですが、マーシーのハーモニカプレイのベストだと思うところ。
ひねもすのたりとりあえず ブートレッグを聴いている
という一節が大好きなのですが、「ひねもす」=「一日中」、「のたり」=「のんびり、だらだらと」といった意味。古い日本語表現ですね。
文学性溢れるマーシーを感じさせる、使い方が流石。
ちなみに「ブートレッグ」は、いわゆる「海賊版の音源」。
アイスキャンディー
作詞・作曲/真島昌利
モータウン調なリズムの一曲。
今の若い人には全く馴染みが無いですが、昭和30年頃までは夏の風物詩として、自転車に乗ったキャンディー売りのおじさんがいたものでした。
とはいえ、マーシーが生まれたのは昭和37年ですし、歌詞を聴くと売ってるのは自分自身。
マーシー得意の本からインスピレーションを受けた内容なのか、はたまた実際の思い出なのか、謎はついに解けなかったというやつですね(笑)
参考 暑い夏の思い出昭和日常博物館ロマンス
作詞・作曲/真島昌利
『空席』に負けず劣らずの、アルバム屈指の名曲。
抽象的な表現が多く、直接的に意味が伝わるものではないですが、えも言えぬマーシーらしい世界観が滲み出ています。
マイナーな音が目立ちますが、サビでは一転キャッチーなメロディに移り変わるのが、流石マーシーですね。
笛の音も入っていたりと、アレンジ面で非常に凝っているのが分かります。
二人の夏の日
作詞・作曲/真島昌利
タイトル通り夏の思い出について歌っている一曲。
冒頭と最後に航空機のエンジン音が挿入されており、頻繁に米軍の飛行機が飛び交う、福生などの横田基地周辺地域を彷彿とさせます。
実際マーシーは過去に福生に住んでましたし、歌詞の妙なリアル感といい、実話であってもおかしくはないと思うところ。
マイナー調なメロディが、より一層雰囲気を際立たせますね。
カーニヴァル
作詞・作曲/真島昌利
いかにも本格的なカーニヴァルの思い出について、歌ったかのような一曲。
横田基地では、毎年秋口に日米友好祭と題目でイベントが行われているようですが、特に歌からイメージするような本格的な感じはありません。
横田基地でのイベントから連想して作ったのか、それともマーシーが住んでいた当時は、もっと華々しいカーニヴァルだったのでしょうか。
ちなみに同曲は夏のぬけがら収録候補だったものの漏れ、今回収録するに至りました。
確かに夏の雰囲気があり、いかにもなカーニヴァル風のアレンジをしなければ、『夏のぬけがら』にもピッタリハマりそうですね。
ジャングルの掟
作詞・作曲/真島昌利
B面の冒頭で、またもや登場するインスト曲。
先の『月のウサギ、太陽のカラス』は穏やかな雰囲気でしたが、一転、賑やかな曲です。
A面ではノスタルジックな曲が中心でしたが、B面はここから一転、楽し気なバンドサウンドに変化。
インストを挟んで、曲調が変わっていくというのが、コンセプトアルバムの体を成しており、こういった構成は大好きですね。
マーシーのターザン声が楽しそうなことなんの(笑)
ちなみにブルーハーツで言うと『TRAIN-TRAIN』が、コンセプトアルバムと言えます。
カレーライスにゃかなわない
作詞・作曲/真島昌利
同アルバムからの唯一のシングルカット曲。
そのまんまカレー作りの曲で、なんの捻りもありません(笑)
有名な話ですが、マーシーはカレーライスが大好き。
ココイチもよく食べるとかなんとか。
もともとはブレイカーズ時代に『スーパーマンを紹介するぜ』として歌われていた曲なんですが、正直ブレイカーズverの方が良いと思うところ。
ヒロトと違い、過去曲を引っ張り出してきて、歌詞を乗せ替えるということをマーシーはよくやりますが、何故カレーの歌にしたのか謎ですね。
『RAW LIFE』の時もそうでしたが、『空席』とか他にキャッチーな良い曲がいっぱいあるにも関わらず、同曲をシングルに選ぶあたりがひねくれてますね(笑)
ミスター・スピード
作詞・作曲/真島昌利
これまでのマーシーソロには無かったような、スウィング感のある一曲。
「火星があいつのことを嫉妬する」とか言ってるように、あまり歌詞に深い意味は無いのでしょうけども、言葉の組み合わせなどでマーシーらしい文学さが、顔を覗かせますね。
軽々とこんな曲を持ち出すあたり、改めてマーシーの音楽的引き出しの多さを感じるところ。
アレンジにおいてベースはかなり重要ですが、佐久間さんの音楽的知見の深さが、的確なアレンジに結びついていると思います。
世界を笑う男
作詞・作曲/真島昌利
前曲と同様の、スウィング感強めの一曲。
冒頭の裏打ちのドラムが映えますね。
サックスリフがカッコよく、ソロとアウトロくらいでしか目立ったギターサウンドが入ってないのが、いつものマーシーとは違う、異色感を強めます。
ドーパミン・ベイビー
作詞・作曲/真島昌利
ギターリフから始まる一曲ではありますが、ブルーハーツなどで見られるリフとはまるっきり違うアプローチ。
ファンクっぽさも入ったような、ハネた印象を受けます。
歌詞はエロティックな感じですが、『RAW LIFE』のような直接的な表現ではなく、間接的な表現が主。
マーシーにしては珍しいワウを使ったソロも印象的。
思えばハイロウズになってから急にワウを使い始めた印象が強かったですが、改めて聴き返すと、今回のように時たま使われているんですよね。
月のウサギ、太陽のカラス(リプライズ)
作詞・作曲/真島昌利
アルバム冒頭のインスト曲、『月のウサギ、太陽のカラス』のアレンジ違いバージョン。
メインメロディを、一曲目ではサックスで吹いていたのが、ここではハーモニカで吹いています。
このハーモニカ音が妙に切なく、良い味を出しているんですよねえ。
サウンドも全体的にシンプルになっており、ハーモニカ以外だと、ギター&パーカッションのみ。ぜひ聴き比べて欲しいですね。
「【アルバムレビュー】人にはそれぞれ事情がある /真島昌利」まとめ
事実上のマーシーソロラストアルバムと言える本作。
大半の人はマーシーソロと言えば『夏のぬけがら』と言いますが、『人には~』も素晴らしいアルバムであると感じるところ。
というかマーシーソロは全て名盤だと僕は思ってますが(笑)
『RAW LIFE』同様、長い間廃盤でしたが2014年にようやく再発。
しかし『RAW LIFE』に見られたような貴重音源の収録も無く、ホントにそのまま再発した格好なのが残念です。
アルバム発売後のツアーは『ジャングルの掟ツアー』と題され実施されており、ぜひとも公式音源を収録してくれればよかったのですが。
94年の同アルバム発売以降、音源を発表するほどの表立ったソロ活動は無かったものの、長い沈黙を破り、2015年にましまろを結成したのは記憶に新しいところ。
ある意味ではマーシーソロの続きとも言える『ましまろ』ですので、ソロ4作+ましまろはセットで聴いてもらいたいですね。