良い意味でも悪い意味でも近年のクロマニヨンズの活動はルーティン化しており、「シングル→アルバム→ツアー」とお決まりの流れ。
シングル『クレーンゲーム』に続き、発売された本作『PUNCH』であるが、正直「いつものクロマニヨンズ感が拭えない」というのが率直な感想だ。
ゆえにレビューを書くのを中々躊躇していた部分もあり、加えてどのようなスタンスで書いて行くかという部分にも迷いが。
しかしながら、全ての作品に諸手を挙げて「最高傑作ですね♪」と言っては、巷の音楽雑誌と何ら変わりない。
最近気づいたのだが、逆に海外ではクラッシュのラストアルバムについて、「ファン・評論家双方からこき下ろされ」という文言があったり、先日手に取った『ブリックヤード・ブルース』では、著者がジョン・メイオールの駄作を散々に避難していたりと、本音で意見を言うのが散見される。
個人的にも全てが最高と言っている人の推す名盤よりも、悪いもの・好きじゃないものをきちんと声に出している人の方が断然信用できる。
以前に『FIRE AGE』のレビューでも書いたが、本当に好きだからこそ、本音で描くべきであると思うところなので、顔色を窺わない素のレビューを書いて行きたい次第だ。
PUNCH/ザ・クロマニヨンズ
会ってすぐ全部
アルバムの冒頭に置くのが定石という感じの、キャッチーな8ビートのロックナンバー。
「会ってすぐ全部」という言葉だけ切り取ると、切なげな良い文句であることは分かるが、どうにも繰り返しが多すぎる気が。
それ以外の言葉での彩が薄く感じられ、あまり具体的な光景も見えてこないのが残念。
怪鳥ディセンバー
どこかで聴いたような聴いてないようなタイトルであるが、実際に聴いたらやっぱりそんな感じね、と言ったところ。
「長生き~」からのくだりは唯一メッセージ的な歌詞が登場するが、イマイチはっきりしない。
小学生ならば『ディセンバーかっこいいぜ!』と賛同するのかもしれないが、僕はそうは思えない・・・。
ケセケセ
裏打ちのスカなアレンジで始まるナンバーであり、「割れない瓶~」「消せない墨~」というらしい言葉も見え隠れする。
ただ全編を通して繰り返される「シネ、ケセ」のくだりが、いささか多すぎる印象。
蝉の声がそう聴こえる、という例えなんだろうが・・・。
デイジー
「酸性土の青いアザ」「ファリンゲティの街灯り」など随所にマーシー節が見られ、冒頭から聴いてきた中では個人的に一番良いかなと思うが、一辺倒なアレンジで曲を飛躍させられていない気が。
こんなことを言いだすと元も子も無いが、ビート作家「ファリンゲティ」の名前も出て来てることだし、アコースティックなアレンジを施し、ましまろで演奏してたらもっと映えてたように思える。
とはいえ、ましまろは稼働して無いのだが・・・。
ビッグチャンス
タイトルからお察しシリーズその1。
もちろんそりゃあ大きなチャンスはみんな欲しいが、「だから何なのか?」という薄い言葉の羅列。
ビッグチャンスよりも、ビッグじゃなくて良いのでブルーハーツの美しいチャンスが聴きたい秋の今日この頃。
小麦粉の加工
マーシーらしいワードが映える一曲。
「季節の恐竜が首をもたげる」という表現は流石の一言だが、全体的にこの曲はヒロトの歌唱ではあまりマッチしてない気が。
「団地の子供」「サイダー」同様、本来ソロとして出した方がしっくりくる作品。
クレーンゲーム
先行シングルで先に聴いていたワケだが、こう言うのもなんだが、同曲を聴いてアルバムが「いつもの感じ」であることを察し、中々アルバムを聴く気になれなかった。
「とれそうでとれないクレーンゲームの冥利」を、人生やその他様々な事象と照らし合わせて考えて欲しいといった具合の内容だが、いかんせん掘り下げが浅いように感じて来る。
「生活のドアホ」という一節があるが、『ジャングル9』で「生活」というド直球な曲を出したりしているように、近年何かとマーシー曲において「生活」という言葉が散見される。
よっぽど生活における「しなければいけないこと」に不満や納得が行かなかったり、もっとしたいこと・やりたいことがあるのだろうかと、逆に心配になって来るレベル。
ガス人間
タイトルからお察しシリーズその2。
前作で言うと「東京フリーザー」並みにじっと聴いているのが辛い単調なナンバー。
何かテーマがあるから言葉が浮かび、歌詞が組みあがって来てるのだろうが、リスナー置き去りでイマイチ何を言いたいのか分からない。
整理された箱
売れてない時代のバイトを思い出にした曲であるのは明白だが、心にグッと来るような暗喩があるわけでもなく、いかんせん描写がそのまんますぎ。
ヒロトマーシーに限らず、良い曲というものは「絵が浮かんで来る」と言う事ができ、たしかにこの曲は絵が浮かんで来るが、琴線に引っ掛かるような絵はとても見えない。
リリイ
近年のアルバムでどこか決まり事があるかのように収録されている、ヒロトのバラードナンバー。
前作であれば「サンダーボルト」がこのポジションであったが、遥かにこちらの方が名曲。
とくに「同じ顔した別の春」という一節はなかなか痺れさせられる。
なおヒロトのバラード曲は総じてライブになると、マーシーが後から思いついたと言わんばかりにメチャクチャ泣けるギターソロを弾くので、ここ数年のライブの一番の見どころは、僕はそこになっている。
長い赤信号
同アルバムにおいて、一番心に響くナンバー。
言葉の面で特筆すべき点がいくつもあるが、とくに黄信号を「こぼれ落ちるレモネード」と表現するのが素晴らしい。
個人的にソロ曲『空席』における、「ミルクセーキに溶けてった」という表現も大好きであり、このような飲み物を用いたマーシーの表現技法には専ら弱い。
加えて、エンジニアの川口さんの趣向なのか知らないが、クロマニヨンズになってからやたらとコーラスワークにおいてエフェクトが多用され、いただけないポイントなのだが、同曲ではマーシーの素のままの声が聴ける。
マーシーのザラザラした声が絡みついて来るのが、加工された人工的な声よりも圧倒的に美しいと思うのだが・・・。
例えばハイロウズの『バームクーヘン』における「見送り」のコーラスにエフェクトをかけていたら、興ざめも良いところだと感ずる。
新作という意味でマーシーの声を聴く機会が極端に減ってるため、コーラスで素の声が聴こえてくるだけで涙腺が緩むのは病気かもしれない。
ロケッティア
良い曲が2つ続いたところで、最後の締めくくりに流れていくわけだが、せっかくの良い余韻がかき消されてしまうに思える。
クロマニヨンズになってからは、ミックスにおける加工を極限まで無くし、ライブにおける演奏そのまんま状態で音源にするのが大半であったが、この曲では曲間にパーカッションを中心に様々なギミックが施された。
とはいえ、ブルーハーツ『STICK-OUT』における「マイジェネレーション」のサンプリングや、『DUG OUT』における「ボコーダー」の起用とは本質的に異なり、思いつくままにただ楽し気に突っ込んだような印象を受ける。
ちょっと残念な締めくくりに感じざるを得ない。
「【アルバムレビュー】PUNCH/ザ・クロマニヨンズ」まとめ
以上書き連ねて来たが、もちろん感じ方は人それぞれだろうし、同作で「涙を流すほど感動した」という方にとっては、不快に思った部分もあるかもしれない。
ただ、昔の音楽雑誌を色々と収集してて思うのが、昔は日本でもわりと当たり前に好意的ではないレビューも目立つように載せたりしており、いつからか顔色を窺う好意的なレビューしか書かなくなったような印象を受ける。
例えばマーシーのソロ3rdアルバム『RAW-LIFE』発売時のロッキンオンでは、スピッツの草野マサムネ氏が「言葉が薄くなった~」という苦言を呈するコメントを寄せてたりする。
僕自身はそのアルバムは好きであるが、別に草野氏に怒りなんて感じないし、むしろ第一線で活動するミュージシャンの率直な感想が聴けて嬉しい。
逆に同氏は、『夏のぬけがら』について「この世で一番好きなアルバム」と評しているくらいなので、よほど言葉に信頼性が持てる。
自分を草野氏と同列に扱う気は毛頭ないが、本当に好きだからこそ、本当に思ったことを言うのが一番信頼できると思うところなので、そのスタンスは崩さないでいきたいと思う。
賛否あるかもしれないが、以上パンチのレビューとさせていただきたい。