スズキサトシ(@sasa_rhythm)です!
前作『BUST WEST HIP』に引き続き、勢いに欠けている感のある5thアルバム『HIGH KICKS』。
『BUST WEST HIP』では意図的に意味を消した楽曲が多かったですが、前作ほど露骨で無いにせよ、同じ潮流が感じられます。
本アルバムで特筆すべきはやはり「TOO MUCH PAIN」の収録。
デビュー前からライブで歌われていた楽曲でしたが、87年にメジャーデビューして以降、ライブで演奏もされなければ、レコーディングもされないという状況でした。
同曲はマーシー作のブルーハーツ屈指の名曲であり、長い間ファンの中で幻の名曲と語られていた曲でしたが、デビューから4年経ってようやく陽の目を浴びたのです。
このように屈指の名曲が収録されているアルバムではありますが、全体的にはいかにもなブルーハーツらしさ、というのはありません。
前作ではヒロト曲の方が圧倒的に光ってましたが、先の「TOO MUCH PAIN」しかり、本作ではマーシー曲が光ってるのは明白。
ヒロトの曲はふわーっとしすぎてる印象を受けますね。
ということで、曲解説に入っていきましょう。
HIGH KICKS 楽曲解説
皆殺しのメロディ
作詞・作曲/甲本ヒロト
冒頭の曲で、アルバムの印象を決定づける重要な曲ではありますが、タイトルの過激さのわりに、楽曲のインパクトはそこまでではありません。
ここでいうところの「皆殺しのメロディ」というのは、音楽のことを指しているように思えます。
そう考えると「マシンガンのリズムだぜ」という一節も納得できますね。
とはいえ、Aメロの歌詞を見てもなにか統一的なものがあるのではなく、単なる言葉で選んでいる印象。
あとアレンジの音合いがどうにも薄いように感じるのも確かです。
M・O・N・K・E・Y
作詞・作曲/甲本ヒロト
バイク好きのヒロトが、当時所有していた「MONKEY」というホンダのバイクをテーマに作った一曲。
歌詞に感動するとかは無いですが、バイクの音がフューチャリングされてたり、アレンジがロックンロール調というところで聴きごたえアリ。
白井さんの愉快なロックンロールピアノが入ってるのも良いですね。
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作詞・作曲/ 河口純之助
本アルバムは河ちゃん曲が2曲収録されており、そのうちの一曲。
前作収録の「真夜中のテレフォン」は素晴らしい名曲でしたが、同アルバムの河ちゃん曲は正直イマイチです(^_^;)
あまり耳に引っ掛かるメロディといったポイントも無いですし、気だるい印象を受けるんですよね。
河ちゃん曲の収録が2曲になったのも、この時期ブルーハーツが方向性を摸索していた時期で、ヒロトもマーシーもどんな曲をやっていくべきか悩んでいたということも大きいでしょう。
あの娘にタッチ
作詞・作曲/甲本ヒロト
シングルカットもされた一曲で、ニューヨークで撮影されたPVが愉快で見ていて楽しくなってきます。
メンバー全員で面白おかしいダンスを踊っており、とくにマーシーがめちゃくちゃ楽しそうなんですよね(笑)
タイトルから分かるように、恋の歌なのですが、ラブレターのようなドスンとくる熱いラブソングではなく、かなりポップな感じ。
たしかにラブソングならばラブレター的な感じの方が良いのですが、軽いテイストだからこそ伝わるものがあるのも事実ですね。
ホームラン
作詞・作曲/真島昌利
マーシー大好き野球をテーマにした一曲。
シンプルな歌ですが、メロディラインが心地よく大好きなんですよねえ。
アレンジもアコースティックな感じですし、マーシーが弾き語りで歌ってもバッチリ似合いそうです。
甘い球を投げたら 俺のバットが火を吹くぜ
というAメロ冒頭のメロディが最高。
言葉関係なく、メロディだけで涙腺が緩みます(笑)
マーシーが多感な時期にはON(王、長嶋)がまさに最盛期で、マーシーが多大な影響を受けたことが分かりますね。
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作詞・作曲/真島昌利
あまり有名な曲では無いですが、これぞ詩人マーシーを体現する珠玉の名曲と言えます。
ホームランに続きアコースティックなアレンジがされているのも、さらに雰囲気を増長させています。
ゲストプレイヤーであるリクオ氏が弾くアコーディオンも絶妙にマッチして素晴らしいです。
遅すぎること なんて本当は 一つもありはしないのだ 何するにせよ 思った時が きっとふさわしい時
冒頭の歌詞から名言登場で、挑戦への背中を押してくれるマーシーらしい言葉。
そしてこの曲のハイライトは、なんと言っても終盤のこの歌詞でしょう。
あきらめきれぬ事があるなら あきらめきれぬとあきらめる
言葉遊びのようになってますが、解説すると、すなわち「諦めきれないことを、諦めきれないと、思い続ける」ということですね。
分かりにくいので端的に言うと、要は「諦めない」ということ(^_^;)
この表現の仕方がまさにマーシーらしく、言葉の美しさを感じさせてくれます。
THE ROLLING MAN
作詞・作曲/真島昌利
タイトルにあるように、「転がる男」について歌った一曲。
アレンジの感じもロックンロール定番フレーズを使った感じで、ミドルテンポなロックナンバーといったところ。
あまり深い意味の無い歌には思えますが、ブルーハーツとして転がり続けている自分たちを重ねている部分もあるのでしょうか。
俺は転がる男だぜ 月の時計を腕に巻き 指名手配をくぐり抜け どこまでも転がっていく
「月の時計を腕に巻き」といったような、さりげないマーシーっぽい文学表現が顔を覗かせるのもポイントですね。
東京ゾンビ(ロシアンルーレット)
作詞・作曲/甲本ヒロト
皆殺しのメロディ同様、過激っぽいタイトルにも関わらず、イマイチ迫力の無い楽曲。
言葉の無意味さも相まって、あまり好きになれない曲ですね。
ギターワーク的にはパンクロックお馴染みの半音移動フレーズを使ったりと、弾く分には面白そうですが、聴く分にはなんとも言えないところ 汗
珍しくソロでワウを使ってるのも注目です。
HAPPY BIRTHDAY
作詞:河口純之助・甲本ヒロト / 作曲:河口純之助
同アルバム2曲目の河ちゃんソング。
「心の救急車」よりもこっちの方がロック調でカッコイイです。
作詞面でヒロトが手伝っているのも面白いところですね。
タイトル通り誕生日ソングなのですが、平易な言葉で紡いでるところが河ちゃんらしさを感じるところ。
ラスト間際の「生きることはカッコイイ」の部分で、河ちゃんのハモリが入ってくるのが心地良いですね。
闘う男
作詞・作曲/真島昌利
リフが印象的な8ビートなロックナンバー。
肉体を武器にして ただ一人立ち向かう 闘う男達よ 冷たい風に吹きつけられても
サビの真っすぐな歌詞が印象的ですね。
「肉体を武器にして」と言ってるあたり、プロレスなどの格闘技系を連想させます。
全編を通してアコギを入れてるのも、軽快さを出すのに一役買っています。
ネオンサイン
作詞・作曲/甲本ヒロト
同アルバムのヒロト曲では一番好きな曲。
メロディラインが超絶心地よいんですよねえ。
タイトルに「ネオンサイン」とあるように、夜の街について歌ってる感じなのですが、綺麗な光景が眼前に浮かぶ美しい歌だと、常々思います。
きずだらけの星があり きずだらけの人がいる できるだけ美しい花を 咲かせて行くんだよ
という言葉が、まさにヒロトらしいですね。
ネオンに包まれてる綺麗な街の中にも、色んな人間がいるんだよなあと、感じさせてくれます。
TOO MUCH PAIN
作詞・作曲/真島昌利
同アルバムにおいては間違いなく一番の名曲ですし、ブルーハーツにおいても屈指の名曲なのが「TOO MUCH PAIN」。
分かりやすいメロディに、感傷的で詩的な言葉が乗った歌は、マーシーの天才ぶりを体現する一曲と言っても過言ではありません。
「TOO MUCH PAIN」の意味としては、「数えきれないほどの痛み」といった感じ。
別れた女性について歌っている曲に思えますが、言葉の意味を分かった上で聴くと伝わり方がさらに深くなります。
世の中に別れの曲なんてたくさんありますが、正直「TOO MUCH PAIN」を聴いてしまうと、他の歌は安っぽい歌詞に感じてしまうんですよねえ。
それだけ圧倒的で、有無を言わせない力を持った曲と言えます。
アレンジ違いがベスト盤、『EAST WEST SIDE STORY』に収録されていますが、厳密に言うと同じ音源を、別ミックスでキー(音の高さ)を上げ、ラストをフェードアウトではなく最後まで流す、という2つの変更点があります。
ラストのハーモニカのアドリブが超絶心地よいので、最後まで聴きたい片はバージョン違いも必聴。
さすらいのニコチン野郎
作詞・作曲/真島昌利
もともとはマーシーがブレイカーズ時代に「BEATにしびれて」として演奏していた曲を、テンポを落とし、歌詞を全部取り換えたもの。
前作でもブレイカーズ時代の「夜の中で」を持ってきて編曲しており、この時期は自分の昔の曲を改めて見直してたのかな?とも思います。
「夜の中を」は原曲に負けず劣らずの名曲でしたが、正直「さすらいのニコチン野郎」は、断然原曲の「BEATにしびれて」の方がカッコイイです。
ミドルテンポになってしまい雰囲気がかなり変わってしまったというのもありますし、元の方が歌詞がカッコイイんですよね。
そして同じリフでもテンポが違うだけで、ここまで聴き心地が変わるんだと思うと、アレンジにおけるテンポの重要さを強く感じます。
「【アルバムレビュー】HIGH KICKS/THE BLUE HEARTS」まとめ
前作『BUST WEST HIP』 と合わせてブルーハーツが中だるみしていた時期とよく言われますが、個別の楽曲に目を向けると素晴らしいものが多いのも事実です。
古い曲を持ってきただけ、というのもありますが、「TOO MUCH PAIN」をここに来てきちんと発表してくれたことにまず感謝。
マーシー曰く「忘れていた、に近い感覚」と語っていますが、ある種ブルーハーツが迷走していた時期だからこそ、思い出す良い機会になったと感じます。
そう考えると、こういった時期も必要不可欠であったと感じるところ。
本人たちも、なんとも言えない窮屈さを重々理解しており、それゆえに原点に立ち返るという意味で、気持ち新たに「スティック・アウト」「ダッグ・アウト」、通称「凸凹」という名作がこの後に生まれたのです。
なにはともあれ、『HIGHKICKS』は彩多いアルバムにはなっており、名曲も収録されていますので、手に取ってもらえると嬉しいですね。
ちなみに本作がGRAMの杉浦逸生さんがアートグラフィックに最後に関わった作品であり、理由も告げられず解任され、未だに謎のままだとか・・・。
このような暗部はともかく、歌詞カードに掲載されている逸生さんの造形物は非常にカッコ良いので、きちんと見ておくべきものでしょう。