スズキサトシ(@sasa_rhythm)です!
前作『TRAIN-TRAIN』の大ヒットから2年近く、満を持して発売されたのが4thアルバム『BUST WEST HIP』です。
『TARIN-TRAIN』の影響はすざまじく、ブルーハーツの知名度をさらに向上させ、ファンも莫大に増加。
なにより「若者の代弁者」的なレッテルを貼られ、常にそういったものを求められるようになっていきました。
本作はマーシーいわく、その「ブルーハーツの予定調和を打開しようとしていた時期」であり、歌詞を見るとその傾向が顕著に見られます。
とくにそのふり幅はマーシーが大きく、前作では「TRAIN-TRAIN」「青空」と、ブルーハーツの代表作となるような楽曲を発表したのに対し、本作では「キューティーパイ」「スピード」など明らかに意味を無視して作った曲が目立ちます。
逆にヒロトに関しては「情熱の薔薇」「ナビゲーター」など、言葉のある屈指の名曲を同アルバムに収録しています。
それゆえアルバムのバランスは取れていると感じるところで、同じタイミングでヒロトまで意味を無くす方向に行っていたら、ハイロウズの『Tiger mobile』並みに意味不明な曲ばかりの作品になっていたかもしれません。
ちなみに同アルバムは、ブルーハーツで初めてオリコン1位を獲得してますが、これは明らかに前作『TRAIN-TRAIN』の余波です。
他のバンドでもそうなんですが、大ヒットして一気に知名度が上がると、自作に注目が集まってそっちの方が売れるんですよね(^_^;)
Oasisのサードアルバムなんかもその典型。
それでは楽曲を掘り下げていきましょう。
BUST WEST HIP 楽曲解説
イメージ
作詞・作曲/真島昌利
「中身が無くてもイメージが大切だ」と高らかに歌う同曲は、まさに中身のある言葉を求めて来る聴衆に向けて言っているように思えます。
この曲を冒頭に持ってくるあたり、真っ先に伝えたい主張なんでしょう。
どうやらそれが新しいハヤリなんだな 明日はいったい何がハヤるんだろう
という言葉は、まさに流行りに流され、一貫した自分の主張というものを持たない人への警鐘と捉えることができます。
そしてブルーハーツ自体が流行っている状態であり、自分らを客観視した言葉であるのかもしれませんね。
殺しのライセンス
作詞・作曲/甲本ヒロト
深い意味は無い曲なのですが、愉快な感じのアレンジが好きなんですよねえ。
タイトル通り「殺しのライセンス」について歌っていますが、重い感じは皆無で、すごくポップ。
内ポケットにナイフを秘めて ジェット機みたいに飛んでく 俺は今日からヘビだ 絡みついてゆくぜ
というメロディが秀逸で、一気に曲に引き込まれてしまいますね。
イメージもそうだったんですけど、ギターがパワーコードやコード弾きということでなく、リフっぽいニュアンスで弾いてます。
それがいつものブルーハーツっぽさを薄めている大きな要因になってますね。
首つり台から
作詞・作曲/甲本ヒロト
シングルカットされた、ヒロト作のナンバー。
「首つり台から笑ってみせる」とサビにあるのですが、昔からどうもこれを聴くとワンピースのゴールド・ロジャーを思い浮かべちゃうんですよね(笑)
とはいえ、ワンピースの連載が始まる遥か前に作られた曲なので、当然関係性は皆無。
「殺しのライセンス」同様、深い意味は無い曲ですが、なんとなくこういった類の映画や小説から影響を受けて作ったんじゃないかと思ったり。
脳天気
作詞・作曲/真島昌利
同アルバムのマーシー曲では一番好きなナンバー。
タイトルは「脳天気」ですが、「能天気」の方が一般的です。
この違いは何かというと、元々「能天気」という言葉があったところに、昭和後期に小説家の平井和正氏が作中で用い「脳天気」を広めたということだそう。
どっちが正しいということも無いのですが、「脳天気」を使うのが文学青年マーシーらしいですね。
後年、「ましまろ」で珍しくマーシーがテレビ出演した際に、同曲について語っていました。
「TRAIN-TARIN」の大ヒット以降、街を歩けば色んな人から話しかけられるなどが原因で、精神的に疲弊した状況に陥り、「自分が自分じゃない感覚」に陥っていたそうです。
そんな時に公園でぼーっとしながら浮かんできた曲が、「脳天気」だそうで、精神状態がどん底の時に作った曲と聞くと、妙にほのぼのしすぎているのが逆に異常と感じます。
このエピソードを聴くと、かなりの精神状態だったことが分かりますね。
誕生秘話はともかく、のどかな光景が浮かぶ名曲ですよ。
夜の中で
作詞・作曲/真島昌利
この時期からマーシーがときどき古い曲を引っ張り出し、歌詞を改編して発表することが出てきました。
同曲は元々ブレイカーズ時代の「夜の中を」なんですが、ブレイカーズバージョンも良いですし、こっちのバージョンも良いんですよねえ。
アコースティックなアレンジで、全編にマーシーのハモリが入ってるのが本当に綺麗。
風に足を絡ませて 月の光のゼリーを 木の葉に包んだら そろそろ出かけよう
などなど、歌詞も美しい表現ばかり。
意味の無いマーシー曲が多い同アルバムでは、文学性が感じられる貴重な作品です。
悲しいうわさ
作詞・作曲/真島昌利
マイナー調なブルースフィーリングが際立つ一曲。
「悲しいうわさを聞いた」ということを淡々と歌う感じで、意味は皆無な曲ですね。
珍しい聴きどころとしては、マーシーがバックで「あぁー」とうなだれた声を入れてるとこでしょうか(^_^;)
Hのブルース
作詞・作曲/真島昌利
通常の12小節3コードのブルースからはちょっとズレますが、ブルースの範疇には入るでしょう。
アドリブ性も高く、ギターソロやハーモニカも聴きごたえがあります。
曲の内容としては全くの意味不明で、あまり一般受けする感じではありません。
夢の駅
作詞・作曲/甲本ヒロト
ヒロトらしい明るいナンバー。
ギターソロが無く、歌メロに忠実な感じで、白井さんがピアノソロを弾くのも雰囲気が出ていいですね。
「夢の駅」というのは、眠りに落ちた時のことを言っているように思えます。
帰り道には 昨日までに見た 悲しい場面 忘れてしまうような
という歌詞があるように、「眠りに落ちたあとの、夢の帰り道」みたいな意味合いですかね。
なんにせよホンワカした感じで楽しい気分になる一曲です。
恋のゲーム
作詞・作曲/甲本ヒロト
そのまんま「恋のゲーム」について歌っている一曲。
とはいっても言葉数が少ないので、「ラブレター」のような、直球ラブソングということではなく、語感を楽しむ感じの曲ですかね。
踊りたくなるようなギターソロも最高です。
スピード
作詞・作曲/真島昌利
ストレートなロックナンバーですが、これまた意味は無い一曲ですね。
色々とそぎ落としてる感が強く、クロマニヨンズでやってても違和感が無いですね。
スタイリッシュなリフが印象的で、ベースラインも結構動いてるので、楽器演奏者にとっては聴いてて面白い部分があるかもしれません。
キューティパイ
作詞・作曲/真島昌利
同アルバムにおいて唯一のマーシーボーカル曲。
ゴリゴリなロックサウンドを鳴らしながら、ひたすら小数点を言うだけという、意味の無い言葉すらも通り越した境地と言えます。
太いギターリフの感じがカッコよく、ひたすらアドリブをしているハーモニカも聴きどころ。
2分以下という短さで、意味も無い歌詞ですが、個人的には結構好きなナンバーです。
情熱の薔薇
作詞・作曲/甲本ヒロト
紛れもなく同アルバムにおいて一番の名曲で、最初で最後のオリコン1位と、ブルーハーツ最大のヒットとなったナンバー。
シングルとはアレンジ違いですが、アルバム版の方がシンプルで好みです。
どちらのバージョンも共通ですが、間奏の部分がベースとギターの掛け合いになっていて、めちゃくちゃカッコいいんですよね。
曲構成が面白いのもポイントで、サビがラストに一回きりしかありません。
答えはきっと奥の方 心のずっと奥の方 涙はそこからやってくる 心のずっと奥の方
などと言ったヒロト随一の詩的で深い言葉が魅力的で、人の心を鷲掴みにする素晴らしい名曲であることは、誰しも認めるところ。
真夜中のテレフォン
作詞・作曲/河口純之助
ブルーハーツで初めて河ちゃんが単独ボーカルを担当した一曲。
河ちゃんが発表した曲は数少ないですが、「真夜中のテレフォン」はトップクラスに好きな曲ですね。
天才ヒロトマーシーの陰に隠れがちな河ちゃんですが、メロディといい、作曲センスは高いと感じるところ。
アコースティック感が強く、神秘的なアレンジが美しい雰囲気を増長させますね。
ライブではハーモニカとの掛け合いボーカル的なアレンジで演奏されてるんですが、こっちも滅茶苦茶良いんですよねえ。
ナビゲーター
作詞・作曲/甲本ヒロト
スライドギターのイントロから始まる珍しいアレンジの一曲。
バックではアコギが中心で鳴っており、もの静かな雰囲気がピッタリです。
「自分自身のナビゲーターは魂である」というメッセージ性が素晴らしく、常人では出てこない発想に、ヒロトの天才ぶりを感じざるを得ません。
後年、ヒロトのことを「宗教的に無知」と批判していた河ちゃんでしたが、この曲については認めており、どんなことを信じている人でも、素直に良いと思える名曲だということが分かりますね。
「【アルバムレビュー】BUST WEST HIP/THE BLUE HEARTS」まとめ
「予定調和を打開する」という意図があったように、特にマーシーにおいては意味を無視した楽曲が目立つアルバムでした。
しかしこれまで言葉を常に念頭に置き楽曲を作ってきたでしょうから、そういう意味では、意味の無い歌詞という領域に踏み込んだことにより、ブルーハーツの表現力の幅というのは広がったとも言えます。
同アルバムにおいても「情熱の薔薇」「ナビゲーター」など素晴らしい楽曲はありますが、アルバム全体で考えると1stや3rdには到底敵いません。
次作『HIGH KICKS』も同アルバム同様に、ブルーハーツらしさに欠ける作品で、この2枚は中だるみ感があるのは確か。
しかしこの時期があったからこそ、名盤凸凹の2枚が生まれたわけで、彼らにとっては必要な時期であったのでしょう。
あまり初心者にはオススメしにくいアルバムではありますが、情熱の薔薇のバージョン違いを聴いてみたい人など、ヒロト好きの方は聴いてもらいたいですね。
なお前作のツアーを経て、本作から白井さんがレコーディングに全面参加しており、多様な面で大きく変化があったアルバムと言えるでしょう。
余談ですが、本作のレコーディングエンジニアはクロマニヨンズでお馴染み川口聡氏。
次作『HIGH KICKS』でも一緒に仕事をしており、この頃がおそらく出会いになったのではと思うところ。