日本が誇る文豪である太宰治。
教科書に採用されていることから『走れメロス』が著名だったりしますが、『人間失格』『斜陽』あたりは日本の文学史に残る傑作として、後世に語り継がれています。
かく言う僕自身もメロス以外知らない程度だったものの、文学に興味を持ち始めた事をきっかけに、色々と読み進めて行ったところ、今まで太宰を読んでいなかった事を恥じるほど、すざまじい傑作ばかりで空いた口が塞がらない状態に。
流石にマニアックなものも含めて全作品読んだワケでは無いのですが、主だった作品は全て読み終えたので、それを踏まえておすすめ作品を紹介していきたいと思います。
僕も一創作に携わる人間として、太宰作品に触れてから視野が広がると共に、自身の作品にも確実にプラスの影響が出始めました。
ぜひそんな意欲を刺激する作品の数々を、手に取って貰えると嬉しいですね。
太宰治のおすすめ作品
人間失格
言わずと知れた太宰の代表作の一つであり、ほとんど自伝的な内容とも取れる衝撃作。
本作に影響を受けた文学人は星の数ほどであり、文学好きなら誰しも読んでると言っても良いほどでしょう。
個人的にも太宰作品の中でも屈指の好きな作品であり、本作を読んで「創作の根源は自己投影」ということを強く認識しました。
本当の自分を誰にも出せない一人の男の人生を、その男の目線で描いた内容であり、なんとも言えない陰鬱な空気感漂う物語にグイグイと惹かれていきます。
「生きる辛さ」が強く滲んでおり、人によっては辛くなってくる部分もあるかもですが、本作から得られる気づきは唯一無二だと感じます。
津軽
太宰作品の中で個人的に一番笑った作品。
というのも、太宰と言えば社会の闇や人間の影を描いた暗いものばかりに目が行きがちですが、本作は逆で、端的に言ってしまえば旅行記的な内容であり、かつ太宰のシュールな笑いが至る所に詰まってます。
出身地である青森を巡る取材を元にまとめあげられたものであり、事実とは異なる脚色もあったりと小説的な部分もありますが、壮大な自然が見える文章がつらつらと描かれます。
僕個人としても、隣県の秋田出身地なため、馴染み深い土地も登場したりと、さらに感情移入できた部分もありましたね。
とくに最後の育ての親であるタケに会いに行くくだりは、何度読んでも堪らないものが。
斜陽
太宰治を掘って行こうと考え、最初に手に取った作品。
「斜陽族」という言葉を生み出し、国語辞典に意味が加えられるほどの影響を及ぼした作品であり、没落貴族のリアルな描写にのめり込まされてしまいました。
代表作と言われるだけあり、誰が読んでも感じる普遍的な面白さを備えている作品と感じ、緻密な物語には感服させられます。
主だったところをほぼ読んだ今になって考えると、太宰治の特徴である自己投影的な作品のひとつであることがよく認識できますね。
生家の記念館の名称が「斜陽館」となってるほどですし、必ず読んでおくべき太宰作品の一つと言えるでしょう。
御伽草子
日本の昔話を太宰なりに再解釈して構築した作品群であり、独特なシュールな視点がツボで、屈指の好きな作品のひとつ。
「瘤取り」「浦島さん」「カチカチ山」「舌切雀」の四作品を収めたものでありますが、個人的に「カチカチ山」にはめちゃくちゃ笑わせられました。
『そんな見方があったのか』と、今まで考えなかった視点を与えてくれますので、ぜひ読んでみて貰いたいですね。
やたらと皮肉を言いまくる浦島太郎の亀も最高です。
走れメロス
教科書にも収録されている、言わずと知れた太宰屈指の有名作。
僕も遥か昔に授業で触れて、10年以上たった今になって読み直すと、また違った風に感じてくる作品であります。
あらすじをざっと説明すると、処刑されるのを承知の上で友情を守ったメロスの物語。
主題の道徳的な美しさがあり、やもすれば白々しいという声もあったりするみたいですが、それも含めて太宰の作風の広さを実感できるところ。
短編で読みやすい内容ですし、大人になった今こそもう一度読んでみるべき作品でしょう。
グッドバイ
未完のまま終わった太宰の遺作として知られる作品で、多数の女性と関係を持つ男性が、次々と別れを告げていくというもの。
太宰自身が最後に不倫相手と無理心中したように、本作も例に漏れず女性遍歴の多い自己投影的な作品と言えるでしょう。
未完ゆえにえらく中途半端に終わりますが、非常にテンポ良く読みやすい作品であり、コアな太宰フリークで無くとも読みやすいはず。
ヒロイン、キヌ子との掛け合いも面白く、笑いもある作品ですよ。
畜犬談
犬を恐怖の対象と見て、犬嫌いの心情を真剣に述べておりながら、一匹の犬に好かれることになるという奇妙な物語。
かく言う僕自身も、小さい頃に犬に追いかけられたことが原因で、今でも中型犬以上は怖いので非常に共感するところが(汗)
短編小説なのでサクっと読みやすいですし、犬を嫌っていながらも、心の中で様々な葛藤が繰り広げられる様が非常に面白いとこであります。
作中の『芸術家は、もともと弱い者の味方だった筈なんだ』という一節には、何度読んでも痺れさせられますね。
女生徒
太宰ファンの読者「有明淑」から送付された日記を題材に、14才の女生徒が朝起床してから夜就寝するまでの一日を独白体で綴ったもの。
太宰作品と言うと、「人間失格」「斜陽」しかり、重苦しいテーマの作品が多いですが、本作は非常に軽やかで読みやすいと言われます。
なんとも言えない叙情的な雰囲気漂う作品で僕も非常に好みであり、違った角度での読み応えがある作品ですね。
文章中の思考から、かなり知的な少女である印象を受けますし、大人よりも達観してるかのような物事の見方にグイグイと惹き込まれます。
トカトントン
「トカトントン」というトンカチの音の幻聴に悩まされている青年の物語。
加えて単に困ってるのでは無く、その音が聞こえた瞬間、すべてのやる気が消え失せるという奇妙な症状なのです。
ただの不可思議ストーリーでは無く、太宰なりの主張が入った物語と取ることもでき、視座の深さにはいつもながら感服。
最後には青年の書いた手紙に作家が答えるという顛末ですが、完全に太宰自身であろう作家の回答には、深く考えさせられるはず。
あさましきもの
人間のあさましさを伝える短い3つの物語が収録された短編小説。
作中の物語のうち2つは広げられて人間失格の中でも登場してるので、同作品が好きな人は思わずニヤッとさせられるはず。
自己の反省的な面も含めて描き上げたようにも見られますし、深い気づきが得られる内容では無いでしょうか。
改めて自分のあさましさについて考えさせられますね。
「『文学好き音楽家が選ぶ』太宰治のおすすめ作品」まとめ
ということでおすすめの太宰治作品を紹介して来ました。
僕自身、もともと文学は好んでそこまで読まなかったのですが、のめり込んで行くきっかけを作ったのは紛れもなく太宰作品。
映画も音楽も含めて、メッセージ性を含んだものが好きであり、そうした意味で陰鬱とした社会・人間の闇を描いた太宰作品はドツボでした。
物事について今一度深く考えるきっかけを与えてくれる、太宰作品の数々にぜひ触れてみて欲しいですね。