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名盤『バームクーヘン』における録音の異常さ

ハイロウズ随一の名盤である4thアルバム『バームクーヘン』。

 

音源制作からPVや各種デザインに至るまで、全てメンバー自ら制作した、DIY精神満載の作品として有名です。

 

過去にバークーヘン時のインタビューなどは何度も読んでいましたが、自分がバンドをやるようになり、レコーディングの基礎的な知識が付いてから改めて読み直したところ、とにかく「異常」なやり方だなと感じました。

 

異常というのは、いわゆる基本的なやり方をまったくもって度外視しているという意味であり、それでいて最もリアルなハイロウズの音を収録したアルバムになっているという事に、とにかく感嘆したわけです。

 

そこでこの記事では、音楽をやらない人でも分かるように、なるべくかみ砕きながら、バームクーヘンのレコーディングについて解説していきます。

 

世紀の名盤のサウンドが、一体どのように作り上げられたのか、一緒に見て行きましょう。

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そもそもの発端

そもそも、なぜこのようなレコーディング方法を行うことになったのかを、本人らの言葉を元に振り返っていきます。

 

まず前提として、これらはヒロトとマーシーが所有するアトミック・ブギー・スタジオで制作されており、事の経緯について、マーシーは次のように語っています。

 

(マーシー)「・・・ひとりでデモ・テープを録ってみたら、ギターとかすごくカッコいい音で録れたんだよ。これならバンドでやってもカッコいい音が録れそうだなと思って。で、みんなでセッティングしてワーッという感じでレコーディングしてしまった。」

 

これを聞くに、マーシーが試しにデモを取ったことがきっかけとなり、やってみようかと進んだように思えます。

 

別のインタビューでヒロトは次のような発言を。

 

Q.全部自分達でやった方がてっとり早いと?
(ヒロト)「理由なんてないよ。ただその方が楽しいから。なんか特別な、おおげさなことはなくて、ただそのほうが、楽しいだけ」

 

つまりは良い音で録れたという前提がありつつも、全部自分たちでやってみるのが楽しそうだったからやったに過ぎないという、いかにも彼ららしい理由が見えて来ます。

 

ひとまずこうした背景で始まったレコーディングであるということを踏まえて、実際にどのように録音方法であったのか掘り下げていきましょう。

レコーディング方法

まず、レコーディングは大別すると2つの種類があり、それは「一発撮り」と「別録り」。

一発撮り

一発撮りはその名の通り、一回で全ての楽器を録音する方法であり、まさにライブと同じ感覚でレコーディングできるため、迫力あるバンドサウンドを追求したい場合に用いられる方法です。

 

しかしながら、よほど高価なスタジオを使用しない限りは、それぞれのマイクに他の楽器の音が入ってしまい、ミックスにおける細かい音作りが困難というのが、大きな難点に。

 

※ミックスの意味についてはこちらの記事を参照ください

リスナーも覚えておきたい、別バージョン・リミックス・リマスターの違い

さらにパンチイン・パンチアウトという手法を用いる、細かい修正も基本的に困難であり、納得するテイクが撮れなければ、全員で何回も撮りなおす必要が。

別録り

こちらも名前の通りですが、それぞれの楽器を別個に録音し、最終的に組み上げてバンドサウンドにする方法。

 

一般的にはこちらの方法が多数派であります。

 

一発撮りとは異なり、楽器ごとの細かい音作りや修正が可能であるため、表現の柔軟さという面においては、勝手が良いのは確かでしょう。

 

逆に、全員が一緒になって演奏しているわけでは無いため、グルーブ感のある迫力溢れるサウンドという点においては、一発撮りに劣る部分が場合によっては存在。

 

ただ、どちらの方が絶対的に優れた方法ということはなく、あくまで手法の違いにすぎません。

 

そのためアーティストやエンジニアの好みによって変わる部分でもありますし、第一線で活躍するアーティストでも、それぞれの手法でレコーディングされているのです。

 

そして言うまでもなく、バームクーヘンは前者の一発撮りでレコーディングされています。

バームクーヘンの制作手法

そしてレコーディングのもっと細かい部分を見ていくと、何かマニュアルに沿ったような基本的なやり方ではなく、とりあえず手探りで撮ってみたような感じなのです。

 

具体的にいくつかポイントを絞って見て行きましょう。

マイキングは適当

マイキングとは、レコーディングの際にアンプやドラムなどの音を拾う、マイクの設置のことを指します。

 

「音が鳴ってるところにマイク向ければいいんでしょ?」と思うかも知れませんが、マイクの角度や距離、機材のどこに向けるかといった非常に細かい違いでも、録音される音に違いが生じ、拘っていくととにかく細かいのです。

 

とはいえ、いわゆる標準的なセッティングなるものは存在し、僕も含めレコーディングの知見の浅い人は、とりあえずそれに忠実に録音してみるもの。

 

しかし、ハイロウズはそんなのもお構いなし、自分達の思うままに自由に撮っています。

 

(ヒロト)「ギターなんかも、”ここで鳴っているんだから、マイク立てたら、そのまま録れないのかなぁ?”って、ずっと思っていたけど、録れるんだよね。」

 

ただ、当然長いキャリアの中で幾度となくレコーディングを経験し、基本的なマイクの位置をなんとなく分かった上での何となくでしょうから、そこまで通常の位置から逸脱はしてないはず。

 

適当と言いつつも、ある程度は基本的な位置に沿った上でのマイキングではないかと思うところ。

音被りもお構いなし

先にも説明したように、いっせーのでライブのように演奏し録音するのが一発録りでありますが、それでもそれぞれのマイクに他の楽器の音が入らないよう、別々のブースに入って録音する方法もあります。

 

しかし簡易的に作られたリハーサルスタジオ状態の場所ということもあり、ブースを作るのも不可能なため、一切気にせずライブ同様に録音したという。

 

さらには、通常は他の楽器の音を確認するために、ヘッドホンを装用し、他の楽器の音を流し演奏するのですが、ヘッドホンを使わず、通称・モニターと言われる音の確認用スピーカーからヒロトの声を直接鳴らし、ドラムやキーボードに届けるという、通常あり得ない方法を用いています。

 

唯一、ベースの音に芯が無くなるのを避けるため、ベースアンプはブースに入れたそうですが、他の楽器は完全お構いなし。

 

まさにレコーディングというより、ほとんどライブ同様のロケーションと言えますね。

 

にも関わらず最終的なCD音源を聞くと、個別の楽器の音がしっかり聞き分けられるほどの状態となっており、マスタリングの所為かも知れませんが、驚愕の連続です。

ミックスまで自分たちで行った

さらに驚きなのは、ミックスまで自分たちで行っていること。

 

リバーブ等のエフェクトについては各種インタビューを見ても語られていないので定かではありませんが、ボリューム調整はすざまじき方法なのが分かります。

 

(マーシー)「ミックスの時でも、みんなで卓の前にいてさ。ギターのカッティングで始まる曲なんかは、他のマイクをオフにしておくんだ。それで、タイミングで「それっ!」って他のマイクをオンにして。ギター・ソロになると、ギターのマイクをちょっと上げたり。それをみんなでやるの(笑)」

 

このようなマイクごとのボリュームの上げ下げを、デジタルではパソコンで入力するのが一般的ですが、それすらもメンバー揃って行うというのは、ミックスもライブ同然の状態であるという。

マスタリングはプロに依頼

ミックスまで全て自分たちでやっておきながら、マスタリングはいつもお馴染み「ボブ・ラディック」に依頼しています。

 

それは次のような理由だったそう。

 

(ヒロト)「ミックス・ダウンまで自分たちでやったからこそ、マスタリングはプロ中のプロ、ナンバー1、世界一の人にやってほしかったんですよ。」
Q.その根拠は?
(ヒロト)「それは、ある人にこう言われたんだ。「レコーディングなんていうのは、ミックス・ダウンが終わるまではアーティストの作業なんだよ。芸術家さんがやる作業なんだよ。で、マスタリングは何かと言うと、芸術作品を商品、つまり売り物にする瞬間の作業なんだよ」って。”ああ、そっか”って思った。商品にする作業はわからないもん、オレたちは。」

 

ある人が誰なのかは分かりませんが、楽曲制作においてミックスとマスタリングは全くもって別物であるのはよく言われることであり、とことん好きなものをミックスまで追求した結果として、マスタリングは依頼するのは必然の流れと感じます。

 

ここまで見てきたように、ある種ざっくばらんに自由にレコーディングしながら、CDで聴ける圧倒的な迫力あるサウンドに仕上がった一因には、当然ラディックの手腕が一役買っているのではと思うところ。

「名盤『バームクーヘン』における録音の異常さ」まとめ

「好きな音を追求していった結果、最高の音に仕上がったアルバム」という当たり前の事実を認識すると、改めて様々なレコーディング手法は、あくまで手段にすぎないのだなと感じたところ。

 

好きな音を出すために必要な手法があり、手法自体が目的となりがちになりそうであった自分に、真に求めるべきものは何かというのを、改めて気づかさせてくれるやり方と思いましたね。

 

音楽に限らずですが、好きなものをただひたすらに追い求めれば、その手法は関係ないということを改めて感じさせてくれる名盤でしょう。

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