スズキサトシ(@sasa_rhythm)です!
ブルーハーツのラストアルバムとなった『PAN』。
そもそも同アルバムは作る予定があったわけではなく、レコード会社との契約上あと1枚は出す必要があるということで、やむを得ず作られたアルバムでした。
それゆえに、名義はブルーハーツであっても、内容は完全なるメンバー各々のソロ作品の寄せ集め。
まさにビートルズで言うところの、「ホワイトアルバム」のような作品になっています。
寄せ集めだから良くないアルバムと思う人がいるかもしれませんが、むしろ逆。
メンバー各々の個性が色濃く出ており、本当に名曲揃いなんですよ。
また作曲した曲を、それぞれがボーカルを取っているのも特徴。
まあ河ちゃんの曲は歌詞がやたらと宗教っぽいものもありますが、メロディラインだけ聞いたら名曲と言えるものばかり。
梶君の曲も実験的な要素が強いものの、聴きごたえはあります。
ヒロトとマーシーが良いのは言わずもがな。
ヒロトにおいてはタイマーズでギターを弾いてた三宅伸治らと、ブルーハーツ活動休止後に「ヒューストンズ」を結成しており、同バンドの楽曲をレコーディングしています。
マーシーについては直近に発売したソロアルバム『人にはそれぞれ事情がある』が名盤だったこともあり、この時期の作品群は名曲揃い。
アルバム全体を通して、個性豊かでありながら、いつものブルーハーツならではのキャッチーさが見え隠れしますね。
そんな名盤『PAN』について、詳しく紹介していきましょう。
PAN 楽曲解説
ドラマーズ・セッション
作詞・作曲/梶原徹也・新井田耕造
元RCサクセクションのドラマー新井田氏と梶君の共作。
名前の通りドラマーだけでセッションするという、メロディも何も無い曲(笑)
演奏はブルーハーツ活動休止後に、梶君が参加していたドラマーズのメンバー+大島賢治(のちにハイロウズへ加入)という面々。
掛け声も聞こえて演奏してる方はすごく楽しそうなのですが、この曲の良さはドラムを知ってないと分からないと思います(^_^;)
僕もバンドをやるようになってから、改めて聴いて曲の良さを理解。
ドラマーの方は純粋に面白いと思うので、ぜひ聴いてもらいたいですね。
ヒューストン・ブルース(月面の狼)
作詞・作曲/甲本ヒロト
打ち込みを多用したブルーハーツには無い機械的な音が特徴の、ヒューストンズのテーマソング的1曲。
藤井裕さんの弾くベースラインが滅茶苦茶カッコイイのです。
天国なんかに 行きたかねえ
と高らかに叫ぶこの曲は、さながら河ちゃんの宗教問題を受けての歌詞に捉えられます。
現にこの曲に対し河ちゃんが雑誌のインタビューで、「個人的には、甲本ヒロトの楽曲は、彼の宗教的無知を晒すものであり、ファンの皆さんに申し訳ない」と語っており、公然に批判しています(^_^;)
その後仲が疎遠になったかと思いきや、元通りになっているようで、梶君が『THE BIG HIP』をやっている時に、観客で来ていたヒロトと河ちゃんが仲良く話している様子が見かけられたりしていますね。
もどっておくれよ
作詞・作曲/真島昌利
同アルバムのマーシー曲は、本当に屈指の名曲揃い。
ストリングスのアレンジがとても綺麗で、それをバックにしゃがれ声で歌われたら完全ノックアウトです。
小学校の教科書の 挿絵で見たような 雨が降りそうで降らない 暗くて明るい空
という冒頭の歌詞から、マーシーの詩的な世界観が満載。
なんとも言えない空模様の描写が、いかにもマーシーといったところで感動しますね。
タイトルにある「戻っておくれよ」とは、歌詞全体を見ると別れた彼女のことを言ってるのかな?といった印象。
この曲に限らず、同アルバムのマーシー曲は「別れ・終わり」が全てテーマになっており、意図的に選んだことが伺えます。
ボインキラー
作詞・作曲/甲本ヒロト
ヒロト作の下ネタ的一曲。
ミドルテンポの曲調で、歌詞はほぼ「ボインキラー」を連呼するだけ(笑)
リズムの感じが裏打ちが強い感じであり、歌詞どうこうではなく、音を楽しむために作ったかのような印象を受けます。
サビのメロディだけ急激にキャッチーになるところが、いつものヒロトらしさを感じるところではありますね。
花になったかまきり
作詞・作曲/梶原徹也
スチールドラムの音が印象的な、南国調な一曲。
同アルバムの梶君の曲はこれが一番好きですね。
ソロをサックスが取っているのも絶妙にカッコいいです。
「花になれるという特殊な能力を持つカマキリ一族」をテーマに、物語風に歌詞が進んでいくのも、聴きどころの一つ。
楽し気に歌う梶君の声を聴いてると、愉快な気持ちになってきますねえ。
バイバイBaby
作詞・作曲/真島昌利
改めて聴いても、同アルバムのマーシー曲の良さは突出しています。
「バイバイbaby」も別れをテーマにした曲ですが、先の「もどっておくれよ」の方がノスタルジックさが強い印象。
「バイバイbaby」の方が、メロディラインも相まってポップに聞こえますね。
恋をしていた僕は 3mくらい 君をなくした僕は 今じゃ2cmくらい
と自分の気分の浮き沈みを身長で表現するというのは、過去に見ない表現なので、改めてマーシーの詩的な深さを感じます。
歩く花
作詞・作曲/甲本ヒロト
ヒューストンズを代表する名曲の一つ。
ヒロトが友人の結婚式のために作った曲なのですが、涙無しには聞けませんね。
友人の妻は花屋で働いていたそうで、それをテーマに作った一曲。
しかし花屋で働いていたってエピソードから連想して、こんな曲を作れるのは本当に才能ですね。
今日からは 歩く花 根っこが消えて 足が生えて 野に咲かず 山に咲かず 愛する人の庭に咲く
最後の「愛する人の庭に咲く」ってところがもうたまりません。
花を擬人化させるって発想もそうですし、愛する人のとこまで歩いていっちゃうってのも、ヒロトならではの感性。

休日
作詞・作曲/真島昌利
同アルバムに収録されてる最後のマーシー曲。
「生まれ育った町はいずれ出て行くことになる」と言いたいのでしょう。
曲中では主題が町ですが、バンドに置き換えて考えることもできますね。
日常の普遍的な風景を描きながら、最後には「いつかこの町を出て行く」と思い耽るといった内容。
なにもかも色んな事を お日様のせいにして 僕は ボーッとしてる
というBメロの歌詞が象徴的で、「お日様のせいにして」というのがマーシーらしいと思うところ。
トバゴの夢(キチナーに捧げる)
作詞・作曲/梶原徹也
「花になったかまきり」同様、南国調な一曲。
「トバゴ」とはトリニダード・トバゴ共和国のトバゴ島のことで、「キチナー」とはカリプソの父と呼ばれたロード・キチナーのこと。
どうやらこの時期の梶君は、この方面に傾倒していたのが分かりますね。
歌詞中に「スチールパン」とありますが、まさに楽曲内でも使われています。
メロディを奏でることができる特殊な打楽器で、独特な響きが特徴。
ドラマーズセッションしかり、同アルバムの梶君の曲は実験音楽的な要素を強く感じます。
幸福の生産者
作詞・作曲/河口純之助
タイトルからすぐに察することができますが、河ちゃんが傾倒していた「幸福の科学」のトップを称える歌(^_^;)
メロディラインが秀逸なだけに、才能の使いどころを間違えてる感がします。。。
あまりにも宗教色が強く、他のメンバーから作り直してくれと言われた曲もあるようで、「幸福の生産者」が抑え気味でこの歌詞だったら、元はどんな歌詞だったのかと逆に気になります(笑)
Good Friend(愛の味方)
作詞・作曲/河口純之助
ブルーハーツの河ちゃん曲だったら、一番好きな曲ですね。
サビの部分で「この世あの世」という言葉があるように、やや宗教っぽさはあるものの、「よき友」について歌っている名曲に違いはありません。
時のかなでゆく ファッションで 夢は騙せるのか 代償の高い遊びに 迷わない 勇気を持って
というBメロがすごく綺麗ですし、「時のかなでゆくファッション」という言葉が良いんですよねえ。
ひとときの夢
作詞・作曲/河口純之助
まるでもののけ姫のような、荘厳なオーケストラサウンドで始まる一曲。
河ちゃんのネチっとしたボーカルが、妙にマッチしています。
過ぎた月日の おもさより 大切な人 夜の冷たさ 忘れてしまう 大切なあなた
といった美しい歌詞も魅力。
ヒロトマーシーの影に隠れ、これまでブルーハーツで数曲しか発表していない河ちゃんでしたが、かなりのメロディセンスがあると感じますね。
だからこそ「幸福の生産者」なんかは、普通の歌詞を載せて欲しかったなあと、強く思います(^_^;)
ありがとさん
作詞・作曲/河口純之助
古いラジオのような音声加工で、アコギ1本弾き語りで歌われる一曲。
最後に唯一宗教っぽさを一切感じない河ちゃんの曲が来て、一安心といったところでしょうか(笑)
ありがとさん oh ありがとさん また逢える日まで
と、ほのぼのと歌うゆるい曲がブルーハーツ最後の曲になるというのは、ある意味一番しっくり来る終わり方なのかなと思います。
「【アルバムレビュー】PAN/THE BLUE HEARTS」まとめ
ということでブルーハーツのラストアルバム『PAN』について紹介してきました。
ちなみにラストに河ちゃんの曲がかたまってるのは、単なるわがままが理由(笑)
本来はビートルズのホワイトアルバムにならい、バラバラな順番で他のメンバーは収録したかったのですが、河ちゃんの「自分の曲を後ろにまとめたい」という意見に反論することができませんでした。
というのも、河ちゃんが一番格安の製作費で楽曲を作ったから。
幸福の科学会員でもあるアーティスト「水澤有一」と2人で全てを制作をしました。
一方マーシーはオーケストラアレンジをするために、金子飛鳥のフルオーケストラを呼んだため、かなりの赤字を出したわけです(^_^;)
そんな裏話もありつつ制作された『PAN』ですが、ブルーハーツという名前があるだけで、バンドのアルバムとは到底言えませんが、名盤であることは断言できます。
ぜひ手に取ってもらいたいアルバムですね。