キーフ・ハートリー自伝『ブリックヤード・ブルース』を読んだ。
さも知っている感じで書き始めたが、僕も同書を読むまで彼のことを知らなかったので、簡単に経歴を説明しよう。
キーフはイギリス・リバプールの北にある「プレンストン」に生まれ、少年時代にロックンロールに目覚める。
ドラマーとして、いくつかのバンドを組み、ビートルズ好きなら誰しも知っている、いわゆるハンブルグ巡業も経験。
67年にはジョン・メイオールのブルース・ブレイカーズに参加し、後に自身のバンド『キーフ・ハートリーバンド』を結成。
かのウッドストックフェスティバルへも出演という、音楽好きなら即倒寸前の経歴を持つ。
それでいてイマイチ知名度が低い理由は、本の中に書かれているが、実力はありながら、ことごとく波に乗り損ねた人物なのである。
実際、書籍の商品説明でも以下のような言葉が。
「ヒット曲ゼロ、出したアルバム全て廃盤[04年冬現在]、なんでそんな男の自伝が?!」
しかしこの自伝、もうとにかく抜群に面白い。
キーフを知らなかった僕でものめり込むように読み終えてしまったので、当人を知らない人からコアなロックファンまで楽しめる、珠玉の一冊なのだ。
- 60年代のブリティッシュロックシーンに少しでも関心がある
- ロックンロール・ブルースが好き
という人は、たとえキーフを知らずとも楽しめる内容なので、ぜひ手に取ってもらえると嬉しい。
ブリックヤード・ブルース
あらすじ
物語は共著者であるイアン・サウスワースの経営するレコード屋に、リンゴ・スターの衣装などのお宝グッズを売りたいというオヤジが現れたとこから始まる。
その人物こそキーフであり、長年に渡るイアンとの友情のきっかけが示され、キーフの回想録へと入っていく。
生い立ちからロックンロールとの出会い、バンド活動の詳細が綴られ、ページのほぼ大半は60年代の出来事に割かれている。
「60年代英国ロック」という決まり文句が示しているように、いかに密度の濃い話が展開されるかは、容易に想像が着くはずだ・・・。
特徴・感想
①60年代ロック・シーンの最深部にいた男の、生の言葉が綴られている
いわゆるロック本は数多くあれど、渦中にいた人物が、自らその体験をリアルに綴ったおそらく唯一の書籍であること。
一般的な評論や、伝記映画では到底知り得ない、本当の出来事が事細かに記されており、まさに圧巻。
さらに日本語訳に起因するところが大きいのかも知れないが、砕けた口語調が非常に読みやすく、キーフの人となりが文体から伝わってくる。
まるで目の前に当人がいて、語り聴かせてくれているような、臨場感に陥らせてくれると言っても過言では無い。
②いまや伝説という人物が、身近な人としてどんどん登場する
ビートルズ・ビッグスリー・ペースメーカーズ・サーチャーズ・マージービーツ・ブルージーンズなどのマージービート群や、はたまたクラプトンやジミヘンまで、錚々たる面々がありふれた日常にいた人物として登場。
さらにはブルースブレイカーズ時代、ブライアン脱退後のストーンズのギタリストとして有名なミック・テイラーと同じ部屋に住んでいたのだから驚き。(もっとも、テイラーはブルースブレイカーズのメンバーだったが)
個人的には、キーフの無二の友人であったジョン・メイオールの話の数々に、涙腺が緩まされた。
③歯に衣着せぬイアンのディスクレビュー及び解説
共著者のイアンによる、話の中で登場するバンドや人物などの解説や、ディスクレビューなどが収録されているのだが、どれも本音で書かれているのが素晴らしい。
駄作と評す曲・バンドを「80になるぼくのオフクロの方が激しくロックすると思わせるヌルイ曲」「ヒマな時5分聴くだけなら完璧」「値段だけは立派」などと評すなど言いたい放題。
それゆえに、絶賛しているアルバムの良さがより顕著に伝わってくるし、とにかく音楽が大好きなのがよく理解できる。
昨今の日本の音楽雑誌で「アーティストに関し、良いコメントしか書かない」ものが散見されるが、それでは本当に良いものが伝わらないと、改めて認識させられるところだ。
④300枚を超す英国ディスクガイド・レビュー付き
僕も全部聴けていないが、大量のディスクガイドが付いているのは、ロック史を掘っている人にとって大きな道しるべとなり有難い。
勿論、紹介されているディスクは全て聴いてなくとも、楽しめる本なのは間違い無いし、聴いた後でもう一度読み直すと、きっと新たな発見があるのは間違いないだろう。
僕もいずれ全作聴き終えた上で、読み直す日を待ちたい。
「【音楽本レビュー】ブリックヤード・ブルース/キーフ・ハートリー.イアン・サウスワース」まとめ
読後は必ず今一歩深いロックの密林の中に連れて行ってくれると約束できる、素晴らしい良書であるのは間違いない。
キーフ・レルフの人間としての魅力に虜になることは間違い無いし、たぶんジョン・メイオールも好きになるだろう。
役者あとがきでも触れられているが、普通なら一蹴される題材を形にして出版してくれたのは本当に嬉しい限り。
キーフは勿論のこと、共著者のイアン含め、訳者の中山氏など、多数の音楽狂が関わって作り上げられた本が、面白くないわけが無いだろう。
ロック好きなら誰しも、後生大事に手元に置いておきたい書籍になるのは間違いない。