「エンドレス・ドリームス」という一本のビデオテープがある。
ブルーハーツに関連するいくつかの未DVD化の映像作品の一つであるのだが、唯一毛色が違った内容だ。
というのも、本作はザ・ミュートイというロンドンの前衛芸術集団と、ブルーハーツを掛け合わせた映像作品なのである。
10年ほど前には手にしていた作品であったが、正直なんのために作られたものかさっぱり分からず、その疑問は長年放置していた。
今回本記事を書くために改めて同作を見直し、事の経緯を調べたところ、明快な答えが分かったので、レビュー方々まとめていきたい次第である。
「エンドレス・ドリームス」について
制作の経緯
結論から言うと、同作は映画家・写真家として活動していた『今井久喜』氏によるドキュメンタリー芸術作品である。
そもそもの事の経緯はこうだ。
ミュートイは92年当時、高度に発展した機械文明、環境破壊に警鐘を鳴らすための活動として、世界各国に出向き、ゴミを利用して創作物を作り、パフォーマンスを行う活動をしていた。
そんなミュートイに興味を持った今井氏が彼らに接近し、ミュートイを日本に紹介する権利を得たのだ。
そしてその紹介形態として映像作品を作ることとなり、「同グループとブルーハーツが合うのでは?」と話を持ってきて、コラボが実現したというもの。
ちなみに同年11月から刊行された『PKOツアー』の副題が「いらないものが多すぎる」であり、そうした部分に今井氏が共通性を見出した面もあったようだ。
そしていわばお見合いのごとく、『STICK OUT』のレコーディング終了後の92年10月にイタリアへメンバー全員ひとっ飛びし、ミュートイに対面。(イタリアだったのは彼らの活動の都合上)
おそらくその時に映像が撮影されており、それらを元に編集した作品が93年4月10日に発売予定であったが延期。
というのも、5月に逆にミュートイが来日し、同年5月3日・4日と代々木競技場第二体育館にて、コラボライブを行う運びになったためである。
このような複雑な流れを経て、同年7/10にようやく発売されたのが同VHSだったのだ。
「エンドレス・ドリームス」の内容
先にも言ったように、そもそも芸術作品としての側面が強いため、ファンが意気揚々と喜ぶようなブルーハーツの映像の詰め合わせでは無いことは、最初に理解しておきたい。
内容としては、ミュートイ・ブルーハーツそれぞれの映像が一区切りごとに交錯して進んで行くものであり、さらにはタイトルになっている『エンドレス・ドリームス』が一つのテーマとして、要所に散文が紡がれていく。
ミュートイ側の音楽も多く流れるのだが、パンク・ロックンロール好きには耳馴染みの薄い、プログレや即興音楽的なものであり、ピンク・フロイドなどが好きならまだしも、一般的にはずっと聞き続けるのは中々厳しい面がある。
実際筆者も、今回は通してきちんと見たが、当初は耐えられず早送りした記憶が残っている。
ちなみにブルーハーツの同作品への絡み方として、音楽だけ流れる、映像と共に流れる、の2パターンがあり、そういった意味では楽しめるのは後者だけではないだろうか。
しかし後者のパターンは「月の爆撃機」「俺は俺の死を死にたい」「1000のバイオリン」の3曲だけであり、せいぜい15分程度といったところだ。
ちなみに本VHSの月の爆撃機の映像が、youtubeにアップされ、一般的には同曲のPVと認識されている。
しかしよくよく映像を見ると演奏している背後に、ビデオの表紙にもなっているような、特徴的なミュートイの創作物が散見されるので、本VHSのために撮影した映像であることが分かるところ。
なお、シングル『夢』のジャケットの画像もミュートイの創作物である。
このようにたった3曲の映像の為に、わざわざ購入する価値のある映像かと言われると、疑問符が浮かぶのは必然。
ただ、強いて言うならば、同じ時期に敢行されていた『PKOツアー』は映像作品になっておらず、そうした意味でこの時期の映像を見れる、唯一無二の販売作品とは言える。
先にも書いたように、同年5月にコラボライブを行っているため、収録のライブ映像は、その際のものであることは間違いない。
『「エンドレス・ドリームス」ザ・ブルーハーツ × ザ・ミュートイ』まとめ
結論としては、珍しいといえば珍しいが、楽しめるかと言われれば、あまりそうとも言えない、なんとも勧めにくい内容である。
DVD化されていない理由を考えても、そもそもブルーハーツの映像作品という性質の物では無いし、第一あまり売れないのが、この内容では目に見えているのもあるのでは・・・。
ただ現状の社会問題を強く認識し、それに対しあくまでも芸術的な表現で社会に対し発言をしていくというミュートイの姿勢は、マーシーが多大なる影響を受けたビートジェネレーションに通ずる部分もあると感じるところ。
断ることもできたオファーを受け、このようにコラボが実現したということは、マーシーの考えが一役買っている部分もあるのではないだろうかと思う。
決して娯楽作品では無く、重いテーマを孕んでいる本作であるが、興味があればブルーハーツを楽しみながら手に取ってみていただきたい。