スズキサトシ(@sasa_rhythm)です!
圧倒的な成功により、若者の代弁者的なレッテルを張られたブルーハーツ。
その状況にうんざりしていたのもあり、それまで人気を得ていた要因であった言葉を、あえて捨て去って始めたのがハイロウズでした。
今回紹介するバームクーヘンは、ハイロウズ史を語る上では重要なターニングポイントとなるアルバムです。
当時、多くのファンがバームクーヘンを聴き、「本当のヒロトとマーシーが戻ってきた」と表現しました。
ヒロトマーシー特有である人の心に直接訴えかける言葉を、新たに紡ぎだした作品と言えるでしょう。
バームクーヘン以前にも3作アルバムは発売されており、例外的に本物の言葉を持った曲はいくつかありました。
例を挙げますと、「日曜日よりの使者」「月光陽光」などがそうですね。
それらはアルバムで1曲程度であり、大半は意味をなさない曲ばかり。
しかしながらバームクーヘンでは、楽曲のほぼすべてが本物の言葉を持っているのです。
とくにマーシー作品は涙無しには聞けない、切ないノスタルジックさ溢れる作品ばかり。
「見送り」「笑ってあげる」などは特にそうですし、同じタイミングで録音され、シングル『罪と罰』のB面に収録された「即死」はアルバムに収録しなかった理由が理解できないほどの名曲。
ヒロト曲においては「ハスキー(欲望という名の戦車)」がその傾向が顕著。
ということで珠玉の名盤バームクーヘンについて紹介していきましょう。
バームクーヘン/THE HIGH-LOWS 楽曲解説
罪と罰
作詞・作曲/甲本ヒロト
シングルカットされたヒロト作のゴリゴリのロックナンバー。
ロシアの文豪ドエストフスキーによる同名の小説からタイトルが来ていますが、歌詞の内容に関連性はありません。
本アルバムの特徴はなんと言ってもセルフプロデュースによる、さながらライブのような生々しい音色が魅力。
歪みが強い重厚なリフから始まる一曲は、アルバムの勢いを決定付けていますね。
正しい道だけを選んで 選んでるうちに日が暮れて 立ち止まったまま動かない 結局何にもやらないなら 有罪 有罪 有罪 重罪
という一節が大好きで、行動が大事であるということを伝えてくれる、ヒロトらしい言葉です。
チェインジングマン
作詞・作曲/真島昌利
バームクーヘンはどうゆうわけかギターリフから始まる曲が多いです。
マイナー調のリフから始まる「チェインジングマン」は、まさにマーシー節炸裂。
キミがそう信じるのなら ガラクタも宝ものだろ そういうことじゃん
この言葉が特に素晴らしく、「人がなんと言おうと、自分がそう思うものが宝ものだ」というマーシーらしい価値観に震えます。
ヒロト・マーシーそれぞれの曲がひとつづつ登場したところで、このアルバムが他と違うのは誰しも気づくところ。
二匹のマシンガン
作詞・作曲/甲本ヒロト
いかにもなヒロト節とキャッチーなメロディがさく裂する一曲。
出だしの一瞬で脳内に入り込むインパクトのある曲は、まさにヒロトの特徴のひとつですね。
「二匹のマシンガン」という言葉が何を指しているのか定かではありませんが、「ヒロトとマーシー」という風に捉えても違和感が無いとよく言われます。
聖書においてはアダムとイブがリンゴをもいだことが罪となっていますが、それをもじってレコードとするセンスが本当に天才ですね。
モンシロチョウ
作詞・作曲/真島昌利
クールなリフから始まる、マーシー作の一曲。
歌詞中のモンシロチョウが何を指しているのか、理解が難しいですね。
どちらかというと「キャベツ畑でモンシロチョウが飛んでいる光景」を思い浮かべると、全体的にまとまったイメージが沸きます。
意味がよく分からない曲はクロマニヨンズでさらに増えてますが、ハイロウズの方が圧倒的に意味不明でもカッコイイ曲が多いんですよねえ。
ハスキー(欲望という名の戦車)
作詞・作曲/甲本ヒロト
僕がハイロウズのヒロト曲で一番好きな曲。
ヒロトマーシーに出会った中学時代、何度この曲を爆音で聴いたか分かりませんね。
モンシロチョウ同様、何を言ってるかよく分からないんですが、それでも涙が止まらない歌なんですよ。
枯れ葉のような船で ユーレイ船にあった そしてもう戻らない もう二度と戻らない
というBメロが大好きで、ライブで合唱したかったと、思いを馳せるばかりです(TT)
シングルカットもされており、一般的にも人気が高い曲ですね。
うたおう ハスキーボイス
っていうサビの繰り返しだけで、もうたまりません。
副題の「欲望という名の戦車」という副題は、映画『欲望という名の電車』から来てますが、歌詞との関連性は全くありませんよ。
ダセー
作詞・作曲/真島昌利
70年代から登場した若者言葉「ダサイ」をテーマに歌った曲ですが、この有り余るシュールさがマーシーらしいと感じるところ。
「世の中のすべてがダサくて、自分だけはダサイ存在では無いと思うけど、結局自分もダサいんだ」という、世界を俯瞰してみたような視点がものすごいですね。
俺はダサくなんかねえ そう言ってみたいけど みっともなさばかりが トボトボあふれ出す
と最後には自分がみっともないとまで言い切っており、無理をする自分のカッコ悪さを素直に認める姿勢が垣間見えます。
見送り
作詞・作曲/真島昌利
同アルバムのマーシー曲では断トツに好きな曲。
ソロアルバムに入っていてもおかしくないような、猛烈にノスタルジックな歌詞がたまりません。
「空港に女の子を送り届けて見送る」という事柄について歌ってますが、神がかった文学表現が連発です。
何でいつも見送る側は 所在なく立ち尽くすんだ 何でいつも見送る側は ただの風景になるんだ
光景がブワーッと浮かんで来るマーシーの歌詞は、本当に天才としか言いようがありません。
たしかに見送る側はだだ立っているだけで、わき役であるというのは言われれば当たり前なのですが、それを「所在なく立ち尽くす」「ただの風景」と表現できるマーシーは恐ろしいです。
ひどい雨で 空港まで 南へ飛んでくキミに 言葉は歯の裏で溶けた
ここなんて本当に神がかっています。
何か最後に言いたかったことがあり、それを言えなかったという意味でしょうけども、それを「言葉は歯の裏で溶けた」って表現するとは。。。
ありがちなJPOPなら「最後まで思いを伝えられなかった」とかそのまんま言うでしょうけども、マーシーのような比喩表現を使える人は他にいません。
死人
作詞・作曲/真島昌利
「死んでからはなんの意味も無い」という当たり前のことを、当たり前に表現したマーシー曲。
当たり前であるがゆえに、圧倒的な共感を呼ぶ曲とも言えるでしょう。
死んだら死んでいるだけだ 地獄や死後の裁きとか そんなのはウソっぱちだぜ クサい金の臭いがする
人間生まれた時よりも、死んだときの方が金がかかるんじゃないかっていうくらい、色々な風習やしきたりが蔓延してますよね。
そんなことを真っ向から批判できるマーシーは本当に痛快。
人を誉めるなら 生きてるうちに 恋をするのなら 生きてるうちに
と最後にあるように、単なる批判的な歌でなく、「生きているうちに行動しないと意味が無いんだよ」という、ヒロトマーシーらしい背中を押す曲になっているのもポイントですね。
彼女はパンク
作詞・作曲/甲本ヒロト
曲が足りなくてレコーディング時に急きょ作った曲だそうですが、一瞬で作ったクオリティではありません。
ヒロトの尋常ではない作曲能力を見せつけられますね。
「パンク=破壊的、衝動的」なものでありますが、「彼女はパンク」というタイトルは、「自分の彼女はパンクである」or「あの女の子はパンクである」どちらとも捉えられます。
本当なんだよ 壊したいんじゃない 壊れてみたいだけ 粉々に 退屈に飽きちゃった
と歌っているように、どちらかというとパンクから連想する言葉を紡いでる感じですね。
ヒロトらしいキャッチーなメロディラインで、一瞬で耳に残ること間違いなし。
ガンスリンガー
作詞・作曲/甲本ヒロト
「ガンスリンガー」とはガンマンを指す言葉であり、同名で映画や小説なども作られています。
「ハスキー」の副題で映画からインスパイアを受けているように、同じアルバムに収録されていることを鑑みても、映画『Gunslinger』から影響を受けているように思えますね。
映画が発表された時代的にも1950年代で一緒なので、ほぼ間違いはないかなと。
弱い者は助けたいけれど 臆病者はうっとうしいだけ
という歌詞はまさにカッコイイガンマンが吐きそうなセリフであり、インスパイアされた曲でも、このようにまとめるセンスが抜群。
21世紀のフランケンシュタイン
作詞・作曲/甲本ヒロト
タイトルにもあるようにテーマは「フランケンシュタイン」なんでしょうけども、イマイチ何のことを言ってるのか分からない曲。
とはいえバンドサウンド的に滅茶苦茶カッコイイ曲なので、細かいことは気にしないようにしましょう(笑)
間奏のギターではロックンロールの定番ギターフレーズが出てきたりと、サウンド的に楽しめる一曲ですね。
ガタガタゴー
作詞・作曲/真島昌利
ハイロウズでは1st収録の『バナナボートに銀の月に』以来のマーシーボーカル曲。
シングルB面の『アウトドア派』でもマーシーが歌ってますが、あれはヒロトとの掛け合いボーカルですね。
ミドルテンポのゴリゴリのロックナンバーで、ブルーハーツ時代の『俺は俺の死を死にたい』でもそうでしたが、バンドでのマーシーボーカルはミドルなロックナンバーがハマります。
薬物関係の単語が入っているためCDでは「ピー音」が入ってますが、それがまたカッコよさを増長しているんですよ。
ライブでは禁止用語をその時々の気分で変えて歌っており、当時のライブではそこが見どころの一つでありました。
「ロックンロールがあればなんだっていいんだよ」という、昔からのマーシーの一貫した主張が突き刺さる名曲。
笑ってあげる
作詞・作曲/真島昌利
『見送り』に引き続き、マーシーの神がかり的文学表現がさく裂するアルバム屈指の名曲。
イントロのリフはローリングストーンズの「Honky Tonk Women」から来ているのは有名ですね。
色んなことに雁字搦めにされ、窮屈で笑いを忘れている人に対し、「笑ってあげる」と語りかける曲と僕は解釈しています。
キミは笑われたことがないんだろ
というのは、そこが家族なのか友人関係なのか分かりませんが、様々な理由で笑う環境にいない人なんじゃないのかと。
あまりにも深い詩なので、やすやすと解説できるものではないですね。
裸足になって 座禅を組んでも 結局何にもわかりゃしないだろ 日々の煩悩の中で気付かなきゃ 結局何にもわかりゃしないだろ
という出だしの一節が大好きで、必死になって黙って考え込むよりも、日々の生活で気付きを得なければ、何も分かるわけがないんだよという、マーシーらしいメッセージが込められています。
バームクーヘン
作詞・作曲/甲本ヒロト
同アルバムのタイトルにもなっている、名盤の最後を飾る一曲。
2分以下とアルバム随一の短い曲ですが、「バームクーヘン」という形から言葉が広がり、最終的には「人間という形が好きである」というメッセージが詰まった、名曲と言えます。
たとえでっち上げたような夢も 口から出まかせでもいい 現実に変えていく 僕らはそんな形
と歌詞にあるように、「どんなことも現実に変えていける力を人間は持っている」と言わんばかりのヒロトらしい応援メッセージですね。
「【アルバムレビュー】バームクーヘン/THE HIGH-LOWS」まとめ
ハイロウズ随一の名盤「バームクーヘン」についてまとめてきました。
僕の主観を除いてもほぼ全てのヒロトマーシーファンが、ハイロウズで一番良いと挙げるアルバムであり、日本のロック史においても他に類を見ない名盤と言えるでしょう。
冒頭でもお話しましたが、ブルーハーツ以降、意図的に捨て去っていた言葉を取り戻したと言える作品であり、ヒロトマーシーを語る上で大きなターニングポイントとなるのは言うまでもありません。
この傾向は次作「Relaxin’ WITH THE HIGH-LOWS」でも続いており、とくにマーシーがキレッキレなのが特徴です。
バームクーヘンを改めて聴いて思うのは、やはりヒロトマーシーの良さは言葉であること。
他の人には決して作れない、圧倒的な言葉を紡げるからこそ、多くの人の心を動かし、社会にまでも影響を与えてきたのです。
近年のクロマニヨンズでは感じることのできない、本物の言葉が詰まっているアルバム『バームクーヘン』、ぜひ聴いてみてもらいたいですね。