スズキサトシ(@sasa_rhythm)です!
ブルーハーツ後期の大名盤と言われる、『STICK OUT』と『DUG OUT』、通称・凸凹。
今回はそのうち早い曲中心に集めた、凸の方を紹介していきましょう。
長い間ブルーハーツをやってきて、成功を手にしたものの、世間からの目など、様々なことに窮屈さを感じていたヒロト。
「勢い」が無くなって来ていたのを自分たち自身も感じていたようで、もう一回0からやり直す気持ちで作られたアルバムでした。
それだけ強い思いがあるのもあり、当然アルバムは傑作。
1stにも負けず劣らずの圧倒的な疾走感のあるアルバムと言えるでしょう。
なにより純粋に曲が良いんですよね。
ヒロトマーシーともに、「これぞ」という曲を持ち寄っている感じで、いわゆる捨て曲なんて一つもありません。
前作『HIGH KICKS』が冗長な感じであった故、余計に本作の良さを感じます。
ちなみに次に紹介する『DUG OUT』は逆に、ゆっくりな曲調を集めたアルバムなんですが、こっちもこっちで最高。
甲乙つけがたいとはまさにこのこと。
ではでは、楽曲紹介に入っていきましょう。
STICK OUT 楽曲解説
すてごま
作詞・作曲/甲本ヒロト
当時、自衛隊海外派遣に関連する、国の「PKO法案」が物議を醸し出しており、同法案を皮肉った歌。
ギターソロも無く一直線に駆け抜けるアレンジがカッコイイですね。
シンプルなリフも聴きどころ。
最近はこういった社会をテーマにした歌というのは無いですが、この頃はこういった尖りがあるのが良いんですよねえ。
夢
作詞・作曲/真島昌利
シングルカットもされたマーシー曲。
白井さんの綺麗なピアノが目立つのが最高ですね。
あれもしたい これもしたい もっとしたい もっともっとしたい
という言葉に、マーシーの圧倒的な向上心が詰まってると感じるところ。
耳に残りやすく、簡単に口ずさめるのもポイントです。
旅人
作詞・作曲/甲本ヒロト
「プルトニウムの風」という言葉があるように、原子力批判とも取れる歌。
『すてごま』もそうですが、この時期のヒロトは社会に対する悶々とした思いを抱えていたのでしょうか?
「レコードが好きだった」の部分に、The whoの代表曲『my generation』がサンプリングされてるのが面白いですよね。
ヒロトらしいシンプルでキャッチーなメロディも魅力的。
期待はずれの人
作詞・作曲/甲本ヒロト
同アルバムの中ではややテンポが落ちる感じの曲で、人気曲ではないものの、個人的には大好きな一曲。
背中を押しても何もしない、ただ楽して笑っているだけ、そんな期待外れの人について歌っています。
具体的に誰かを指しているわけではないんでしょうけども、曲のテーマが秀逸ですよね。
ヒロトのインスピレーションはどこから湧いてくるのか不思議。
やるか逃げるか
作詞・作曲/真島昌利
「STICK OUT」というアルバムで、ある種の攻撃性を見せているわけで、まさにそれとマッチしている、「戦う姿勢」をテーマにした一曲。
「やるか逃げるか」という、単純な言葉ですけども、言葉選びのセンスが流石マーシーと感じるところ。
ちなみに有名なブルーハーツのライブアルバム、『野音 Live on ’94 6.18/19』で月の爆撃機のイントロ前に、マーシーの『やるよー!やっちゃうよー!』という叫びが入りますが、これは直前に演奏されている、同曲に対して言ってるもの。
テトラポットの上
作詞・作曲/甲本ヒロト
釣り大好きなヒロトの釣りソング。
これまでのキャリアで釣りをテーマにした楽曲はいくつかありますが、僕が断トツで好きなのが同曲。
テトラポットの上に立ってる 気まぐれな恋人の夢を見てる
という一節が大好きで、この言葉選びのセンスが天才的としか言いようがありません。
軽快なリズム感もたまらず、聴くたびに踊りたくなりますね(笑)
台風
作詞・作曲/真島昌利
そのまんま台風をテーマにした一曲。
同アルバムの中では一番文学味に欠けるかな、と思うところ。
この年代の気象的な出来事を調べてないのでなんとも言えませんが、おそらく大きな台風があって、それにインスピレーションを受けたのではないでしょうか。
アレンジ的にラモーンズのような雰囲気が漂っており、そういった意味でブルーハーツの原点回帰が感じられます。
インスピレーション
作詞・作曲/河口純之助
同アルバム唯一の河ちゃん曲。
ただこの時点で既に河ちゃんが幸福の科学に傾倒している時期であり、タイトルからもそのようなニュアンスが出ています。
神様ならば きっときっと 僕の答えと 同じはずだね
という一節が、ヒロトは歌えないと拒否して、河ちゃんが歌うことになったのは有名ですが、流石にここは宗教色が出すぎてるのは否めませんね。
曲自体はシンプルでキャッチーな曲だけに残念。
俺は俺の死を死にたい
作詞・作曲/真島昌利
タイトルは「自分は自分らしく死にたい」という意味の英語を直訳して日本語にしたもの。
どうやって思いついたのか謎ですが、この直訳感が無茶苦茶カッコイイですよね。
重たい感じのリフで始まるアレンジも秀逸。
「自分の人生をどう生きるか?」といった普遍的なテーマに対し、「自分らしく自由に生きよう」といったありがちな表現じゃなく、「俺は俺の死を死にたい」と叫ぶところが天才ですよね。
多くの人は注目しない曲かもしれませんが、僕はものすごい文学性を感じる一曲だと考えています。
ライブでは特にですが、曲間にはしょっちゅう荒々しいシャウトが挟まれ、マーシーの煮えたぎる心を感じれて最高。
44口径
作詞・作曲/甲本ヒロト
ガンマンをテーマにした曲はヒロトに多いですが、同曲もその一つ。
ヒロトは西部劇とか大好きなんですよね。
ただどちらかというと同曲は、ガンマンよりも銃に主眼が言ってるかな、という印象。
ガンマン系の曲だったら、ハイロウズ時代の「シェーン」が断トツですね。
うそつき
作詞・作曲/真島昌利
「嘘」をテーマにした一曲ですが、何が本当で何が嘘か分からない不条理な社会、に対する警鐘を鳴らしているように思えます。
視点の切り口が流石マーシーといった、崇高さと感じるところ。
嘘は許さない 嘘は許してる 嘘に泣かされて 嘘で笑ってる
という表現が秀逸で、自分が体験する全ての事象は虚像だと言わんばかりの歌詞が最高ですね。
月の爆撃機
作詞・作曲/甲本ヒロト
アルバムにしか収録されていない曲ですが、ファンの間ではかなり人気の高い一曲。
映像作品『エンドレス・ドリームス』に際して作られた、PV映像的なものも存在します。
爆撃機と人間を対比させ、薄い月明かりを頼りに進んで行こう、という熱いメッセージ性がたまりませんね。
リフもかなり印象的ですが、単純に3コードを弾いてるだけ。
ギタリスト的には、難しいことをしなくても、シンプルが一番良いと伝えてくれるアレンジが珠玉。
1000のバイオリン
作詞・作曲/真島昌利
まさにアルバムを締めくくるにふさわしい名曲。
サビの比喩表現がすざまじく、こんな言葉を思いつくなんて、本当に天才としか思えません。
「ヒマラヤほどの消しゴム」「ミサイルほどのペン」という言葉だけで、それがどれだけぶっ飛んだ、日常を超えた境地かというのを的確に表現しています。
僕が初めて聞いたのはストリングスアレンジの「1001のバイオリン」でしたが、中学生時代にCMから流れて来た言葉に圧倒されて、茫然としたのを今でもはっきりと覚えています。
圧倒的な言葉を持つ楽曲で終わることで、改めてブルーハーツの共感性が、他の日本のバンドとは比べ物にならないと感じますね。
「【アルバムレビュー】STICK OUT/THE BLUE HEARTS」まとめ
以上、ブルーハーツの歴史的大名盤『STICK OUT』の紹介でした。
改めて聴いてみると、ここまで完成度の高いアルバムはまずありませんよ。
もう一度ブルーハーツを0から始める気持ち、という思いがあったように、まさに初期衝動を体現している内容だと感じます。
この後『DUG OUT』を完成させるわけですが、当人たちにとっては『凸凹』を通して、やっぱり初期を超えることができなかった、といった思いだったそうです。
理由は色々あるんでしょうけども、これも解散の一因であったとヒロトは語っています。
色々なバックグラウンドはともかくとして、本作がブルーハーツ、ひいてはヒロトマーシーのキャリアの中で大名盤と呼べる一枚なことには変わりありません。
人生において聞かないと損をしているというレベルの一枚ですね。